囲碁教育では、実戦に適応できる構想力を身につけることが重要な学習テーマとなります。
そのためには、
の4項目を養成することが必要になります。これらを総合することによって、自分一人で未来図を予想し構想することが可能になります。また、その訓練を通じて創造的で積極的な生き方への意識が養われることになるだろうと私は考えています。
それではさっそく囲碁理論を中心に、「最善手」がどのような価値観や思考から生まれているのかを、10の基本法則があるという前提に考えてみたいと思います。
囲碁の特徴は、2つの基本定理によって明確に表現することができます。必然的で効率のよい手順の生まれる理由は、すべてここから生まれています。
基本定理1 囲碁は、地の大きさを競うゲームである。
囲碁は、「地の大きさを競うゲーム」です。そのため、「地を囲うには、どのように打てば効率よく囲うことができるか」が学習の基本テーマとなります。それでは「効率の良い手とは何か」またどのような考え方で打たれているのでしょうか。
基本定理2 囲碁は、最も単純な構築型ゲームである。
囲碁では、ゲームがスタートした時点では盤上に石がなく、ゲームの終了時点には数多くの石が盤上に存在します。また、打つ場所の制約条件はほとんどなく自由であり、将棋のような駒の機能としての区別や種類もなく、最も単純な構築型ゲームであるといえます。
同じ思考ゲームの代表格の将棋では、終局になるほど盤上から駒がなくなります。これが碁と将棋の思考方法や価値観の、大きな相違点になります。
地に関する着手には、「自分の地を囲う」と「相手に地を囲わせない」の2つに分れます。どちらの考え方も同じですが、選択の基準は、自分の手が有利な時は、自分の地を囲う手となり、相手の手が有利な時は、相手の地を囲わせない手となります。
地を囲うには、もっとも少ない石数で広い地を囲うことが理想となります。また地になるには、上下左右をすべて同じ石のグループで空間を囲まなければなりません。この空間の形は、相手の石を囲って盤上から取り除いた空間と同じ形をしています。
地の定理1 地を囲うには、空間を同じ石で囲うことが必要ある。
地を囲うには、石と石をつなげて線にしなければ地になりません。つまり、離れて打たれた2つの石を線として繋げなければなりません。このように、線としてつなげるには、石の上下左右また斜めに石を置く必要があります。
地の定理2 地を囲うには、味方どうしの石を繋げて線にすることが必要となる。
大きな地にするには、地になる中央を省略し柱のない空間にする方がより広い空間となります。ただし、このような中央に石のない広い空間を地にすることは大変難しい技術が必要になります。
地の効率1 大きな地にするには、中央部分の柱の石(味方の石)を省略すると有利になる。
相手との境界がよりしっかりしている、つまり境界にあたる石が取られる心配や、切断される心配がないほど、より大きな地を囲うことができます。
地の効率2 大きな地にするには、相手との地の境界域を強くすることが大切である。
「相手に地を囲わせない」邪魔する行為もまた有効な手段となります。これは地を囲う反対の行為ですが、その手段に応じて「消し、切断、打ち込み」の3つがあります。
消しとは、…相手の囲う地の空間を狭めて、囲い難くする行為をいいます。
実際には、相手の石が連続した線にならないように邪魔する手となります。邪魔をされると地を囲うことができなくなります。
切断とは、…相手の地の境界線を壊す行為をいいます。
実際には、連続した線にならないよう斜めに交差し切る手になります。石が切断されると地を囲うことができなくなります。
打ち込みとは、…相手が地を囲おうとする空間の中で、生きて地を減らす行為をいいます。
石が活きると絶対に取られない状態になるため、その分相手の地が減ることになります。
囲碁のルールでは、相手の石を囲うと盤上から取り除くことができます。そのため、相手が邪魔をしてくると、その石を囲って取り除こうする戦いが生まれます。このような盤上での生存権としてみれば、生きるとは絶対に取り除けられない状態になることをいいます。実際には、目を2つ作り石が絶対に取られない状態にします。また、地とは片方のみが石を置くことが出来る空間の場所である、または相手が石を置こうとしても生きれない空間の場所ともいえます。
地を囲うには、境界線にしなければならないため、数手の連続した着手が必要となります。邪魔する場合は一手で済むため、囲う手より効率がよいことなります。したがって、地を囲う場合には、相手に邪魔させない工夫と準備が必要になります。
基本法則3 地を囲うスピードより、邪魔するスピードが早い
相手の石を1つ取るには、4つの石が必要となり、2つの石なら6つ必要となります。このため、注意し用心すれば、石が絶対に取られないことがわかります。
基本法則4 石を取るスピードより、逃げるスピードが早い。
打った石が取られては構想を立てることはできません。したがって、打った石が取られないことを前提に構想がたてられなければなりません。
基本法則5 石が取られないことを前提に構想が立てられる。
囲碁では、構想を立てる際において、一手づつ読むのではなく、定石などのパターン図形を組み合わせることで、効率のよい手を選択しようとします。
基本法則6 着手を構成する思考は、基本図形の組み合わせによって行なわれる。
相手の形を崩す動作は、大変有効な手段となります。形が崩されると、地の増加や戦いの場面で働きの悪い状態となります。
基本法則7 部分的戦いは、互いに形を崩す動作となる。
盤上の石は一度打つと移動させることはできないため、打たれた黒白の配置関係や形が、将来の発展性、石の効率に大きな影響を与えます。このため、全局的な戦いは、優位な構想を求めて打たれ、相手の構想に対するお互いの阻止によって戦いが起きています。
基本法則8 全局的戦いは、自分の構図と相手の構図の戦いである。
地の大きさを競うゲームということは、地を囲う効率を競うゲームであるともいえます。効率としての要素には、地の大きさ、戦いでの力強さ、全局的な戦いの3つの考え方が基本となります。
これら3つの考え方が集約さたれものが「理想形」となります。定石や布石などお手本となる手順を並べることは、大変重要な学習となります。
効率の法則1 囲碁の効率は、形によって学ぶことが出来る。
■ 地の大きさとしての効率とは、
と定義することができます。
4角形で地を囲う場合、正方形が最も少ない石数で広い地が囲えるため、もっとも効率のよい形となります。また細長い長方形になればなるほど、効率の悪い形となります。隅、辺、中央など囲う場所も効率に大きな影響を与えます。隅は囲う境界線が省略できるため、一手あたりで出来る地としては効率のよい地になります。
■ 戦いでの力強さとしての効率は、
と定義することができます。
中央の5つの黒石を取るには、8〜12の白石が必要となり、4つの石数の差が生まれます。囲碁では、相手の石を取ることはなかなかできません。しかし自分の石がより取られない形を作ることにによって、守りとして戦いとして有利性を高めることができます。
■ 全局的な戦いとしての効率は、
の2つが大きな影響を与えています。
構想の実現には、数手の関連した着手が必要となりますが、自分の構想が相手より優っていると、相手は阻止行動をおこしてきます。このように、効率のよい地を囲うには、相手からの阻止行動を防ぐことが重要になります。つまり、この邪魔を防ぐ手段が、着手制約の条件を利用することによって可能になります。その具体的方法として、
という動作になります。
全局的な戦いとは、この着手制約条件をどちらが手にいれれるかの戦いであるといいかえることもできます。またこの条件は、囲わなければならない地ができることによっても生まれます。このように、この制約条件を利用することによって、より効率的な構想が可能となります。
基本法則9 着手制約の条件がないと、効率的な地は囲えない。
また石の配置によって、囲い易い場所と囲い難い場所が自然と生まれます。それは同時に、戦いが起き易い場所と起き難い場所も生み出します。このような場所を見極め、発展させ修正していく能力がもっとも高度な技術力であるといえます。
基本法則10 全局的な効率が、部分的な効率より優先される。
囲える地の広さと棋力とは正比例の関係にあります。広い地になればなるほど、相手から邪魔されやすいため、囲うことが困難となります。つまり、棋力が低い人ほど広い地が囲えないといえます。また、棋力差によって戦いの戦略に差が生まれます。これは地が囲えない人ほど、より囲いたいという強い意識が影響を及ぼしている考えられます。つまり、高段者は、相手に地を囲わせることで反対に利を得ようとし、初級者は、自分の地を得ようとすることから戦いが始まる傾向があります。
このような、囲碁教育の研究で明らかになったことは、まず、理想となる基本図形や理論法則が理解できなれば、構図を作ることはできない。そしてこれら知識や能力を活用すれは、構想力によってという理想を作ることができる、という点です。
教育として、向上心、やる気、積極性の養成は重要なテーマと考えています。このような向上心は、理想として目的や理由がより明確であればあるほど、大きなエネルギーとなって発揮されます。また、ゲームとして学び親しむことで、面白い、楽しい、不思議であるといった好奇心が湧き上がり、理想を実現する思考訓練によって、有意義で柔軟な発想が生まれ、さらに勝ちたいといった競争意識が自主的な創造意欲を育てると考えます。
囲碁教育を通じて、変化の激しい21世紀の社会において、積極的にチャレンジするベンチャー精神が育てばと期待します。