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第一節 碁の方程式(U)の理論概要

この本では、新しい囲碁用語が数多くの登場します。これらの意味を正しく理解をしていただくために、その言葉の概念と理論での基本となる考え方を簡単にここで述べます。これらの言葉は、後述の各章でも繰り返し、述べています。

1 対局意識と構想力

棋力アップでは、対局によって強くなることが最も効率のいい勉強になります。このために、自分の打った着手ミスに、自分で早く気づける対局意識を重視しています。また、理論の知識としては、必然の石の流れとして構想を重視しています。このため、構想する力を構想力と名づけ、この力が、「碁の本質」の理解度であり、総合力と捉えています。(戦略や戦術は、単に構想を実現するための道具でありテクニック的な考え方であるとしています。)

構想を構成する基本となる考え方は、「着手効率」、「着手価値」の2つの概念になり、ここでは、この2つの役割と作用を明確に区別しています。

2 着手ミスと棋力の関係

勝敗の原因では、すべてが「着手ミス」から生まれていると想定し、着手ミスを「悪手」「手順ミス」「構想ミス」に区別しながら、ミスの特性と違いを説明しています。さらに、棋力アップでは、「着手ミスの数を減らす」、「ミスによって生じた損失をゼロになるように修正する」この2つが基本対策であるとしています。このために、対局意識では、「相手の勢力地を制約する『攻める積極的な意識』によって、自分の勢力地を確保する」ことを第一優先し、この基本戦略によって、「相手の変化に対応した構想とその修正」が可能になるとしています。

この本を、「碁の方程式U 原論編」という表題にしたのは、その内容が、すべて囲碁ルールを原点として理論を展開したものであり、その普遍的な法則集であるからです。

【対局意識】

  1. 攻める意識が基本になります。
  2. 地の制約、生きの制約を優先します。

【攻める】

  1. 相手の地を狭めます。 (構想の制限)
  2. 相手の眼形を奪います (生きの制限)
  3. 相手の無理手を誘います(手を強制する)
  4. 相手の形を崩します。 (反発の阻止)

【勝負の法則】

  1. 攻めないと勝てない。(受けるだけでは勝てない)
  2. ミスを咎めないと勝てない。

【勝敗と着手ミス】

  1. 勝敗原因の多くは、着手ミスである。
  2. 構想ミスよって手順ミスが生まれる。
  3. 手順ミスの損失は、構想ミスより大きい。
  4. 相手のミスを咎められなければ、利益にならない。
  5. 手順ミスは訓練によってゼロにすることができるが、構想ミスはゼロにできない。  
  6. 攻める発想から生まれた構想ミスは、その損失をゼロ近くまで縮小することができる。
  7. 勝負手での主な狙いは、絡み攻めである

3 発生ミスの損失と減少

構想で生じるミスはゼロにはできませんが、減らすことはできます。この避けられないミスを減らすには、発生ミスを、「攻める手から生じるミス」に限定させることが重要になります。その理由は、ミスの特性として、攻めることから生まれたミス修正が容易であり、相手からの反撃に対しても、対応力が大きいけれど、守ることから生まれるミスは、修正が困難でその損失を修復できないためです。このため、勝負に勝つには、「攻めないと勝てない」という積極的な対局意識を持つことが重要になります。

4 構想でのプラス効果とマイナス効果

構想が優位になることで生まれるプラス効果は最大でも3目から5目程度であり、他方着手ミスによるマイナスの損失は、5目以上と大きく、ミスの回数も数多く起ります。このため、どのような対局においても、ミスを減らす考え方、また発生したミスの損失を低減させる考え方と能力が、必要になります。

5 形勢半判断と勝負手。

「形勢判断」の中心目的は、「勝負手」の有効性にあるとし、戦いにおいては、形勢の優劣に関わらず「最大争点」としてこれを意識して構想すべきであると考えています。

形勢判断の考え方には、棋力によってその判断基準の違いが生まれることを指摘し、低い人の場合には、「地合いの大きさ」が重視され、高段者になるほど、勝負に勝つための「勝負手を意識した形勢判断」、「勝ちきることを意識した形勢判断」へと変化していると考えています。これらの考え方の違いが生まれる原因を、「地の大きさ」重視から、「石の強弱の関係性」「次の攻め狙いの有無」「勝負手の有無」などの知識と判断力による差として捉えています。

6 「攻める」という対局意識と構想の修正

攻める」ことを重視した対局意識では、同時に形勢判断と関連した構想の修正が絶えず必要になります。「攻める」という対局意識は、「相手の構想を制限する」ことを第一目的としているため、やや攻め過ぎの傾向が生まれるため、その修正が必要になるからです。

7 勝負手を打つタイミング

勝負手を打つタイミングは非常に重要です。囲碁の特性には、手順が進行すればするほど、「勝敗の確定」、「生きの確定」という確定事象が起り、形勢が不利な場合には形勢の逆転のために早い段階での勝負手が必要になります。このためには、勝負手を意識した形勢判断がいつも重要になります。

【制約する】

 「攻める」という力は、制約する力によって、
石を取る力を、地を増やす能力に変化させます。

  1. 相手に、自由に打たせない状態にする
  2. 相手を、反撃できない状態にする。
  3. 相手に、不利であっても受けざるを得ない状態にする。
  4. 相手を小さく、または効率わるく生きさせる。

【絡み攻め】

  1. 2つの弱い石を同時攻めることで、攻める効果を高める。
  2. 「絡み攻め」になると、石が取られる危険が大きくなる。

【天王山の戦い】

  1. 2つの弱い石が関連した、絡み攻めの戦い。
  2. 複数の戦いが関連する、隠れた中原の戦い

8 制約と全局効率 (勝負手と形勢判断)

どこにでも自由に打てる着手ルールから、相手に「自由に打たせない」、「反撃させない状態にする」という制約の効率が生まれています。制約という効率では、自分の構想より、相手の構想を制約し、効率の悪い手を打たすことが優先されます。自分が理想の構想を実現しようとする場合には、相手から阻止されないための準備が必要になります。さらに実戦では、相手を小さく生きさせる手、小さく地を囲わす手、捨石で絞る手が制約する手として有効になります。

9 部分的効率は、全局的効率のための準備である。

部分的な着手効率は、部分の価値として単独にあるのではなく、全局的効率の道具として存在しています。

構想の目的からみると、部分的な戦い、法則活用の優位性は、すべて目的達成の道具になります。さらに、9つの価値や特性も、勝負手という全体価値を高めるな基礎知識としての道具となり、「石を取る力」「読みの力」が加わることで、地の形勢差や構想力となり、効率差が生まれることになるのです。

10 後手の手からは、形勢差は生まれない。

「後手同士の手では形勢差生まれない」「偶数の等価値は打つことを急がない」、「絡み攻めと見合いの崩壊が戦いの勝負のポイントになる」などのことを明らかしています。また「攻めることによって効率差が生まれる」、「逆転するために勝負手が必要になる」なども、戦いの重要性を証明しています。

11 地を囲う構想の順序

構想としては、第一目的として「勝負手」、「勝ち切る」の2つに集約された戦いが展開され、この戦いが一段落した時点から、第二の目的である「自分の地を囲う」「相手の地を減らせる」という権利を目的とした戦いが展開され「先手の権利」「連続性」という目的達成のための条件獲得の争いが展開されます。

部分効率は存在せず、全体効率のみ問題がなる。 その理由は以下の法則によって明らかである。

  1. 後手同士の形勢差生まれない。
  2. 偶数の等価値は、相殺されるので価値がない。
  3. 「絡み攻め」と「見合いの崩壊」が最大争点になる。
  4. 攻めることによって効率差が生まれる。

【全体価値の変遷】

戦いの争点は「天元の戦い」「絡み攻め」「勝負手」の順に変化し、その戦いから生まれた厚みの差によって「必然性」と「連続性」いう2つの価値が生まれます。この価値の獲得状況の違いによって地の効率に大きな差が生まれることになります。

12 石を取る力と制約する構想

地の生成には、相手の「石を取る能力」が大きく影響しています。ただし、直接「相手の石を取る力」ではなく、「相手の構想を制限する力」として活用されています。ただし、この「石を取る力」の影響は高段者になるほど小さくなり、構想力の差が影響するようになります。勝負を大きく左右する戦いは、「絡み攻め」「隠れた天元を中心とした戦い」の2つになります。これらの戦いは、2つ以上の戦いが同時そして関連することで起ります。