「ねえ、どうしてここに打たないの」
「え、そこに打つの」
「これって定石だよ」
「そうなの」
碁打ちという者は「定石」という言葉に滅法弱い。「定石」という言葉が発せられると、「そこは、定石通りに打つ」ことが無条件で正しい思ってしまう。このため、定石を覚えることそのものが、経験や知識となり、かえって間違った判断する原因になってしまう。
コンピューターは、登録していないと定石を打つことができない。それなら、たくさんの定石を覚えさせると強くなるかというと、時には強くなることもあるが、かえって弱くなる時が多い。なぜなら、打ってはいけないミス手が数多く起こることになる。人間の場合なら、知識以外に危険であるという直感という感性によって、場合によってミスを回避する手段を持っているが、コンピューターには、そのような直感という概念そのものがない。