あれから、さらに三ヶ月が過ぎた、例年より暑く長かった夏もようやくにして終わり、若干雲も秋らしくなってきた。マサからの電話は今のところない。こちらから電話する事も特にない。
「困った、困った」また突然の電話である。
「おいおい、何が困った。警察に追われているのか」
「それならまだましだ。警察なら逃げるか捕まるかで終わりだからいい」
「なんて奴だ、それ以上に困っているのかお前は」
「終局の方法がわからない」
瀬越は一瞬、マサの言葉の意味が、何を意味するのかが理解できなかった。
「対局ソフトで、終局ができないようじゃ、ゲームにならないね」
「そう、そうなんだ。囲碁の終局って、将棋のように『王が逃げられない』という明確な終局の規定がない。対局している両者が『終わりですね』といったら終わる。だから困る。」
なるほど、そういう事だったのかと困ったという意味が瀬越に理解できた。
「それなら、コンピューターにパスさせたらどうだ」
「碁でパス。そんなルールがあったっけ」
「なければ、お前が作れはいいだろう」
「でも、パスをすれば相手が2度続けて打ってくるぞ」
「何度でもパスして、相手に打たせりゃいい、終いには打つところがなくなるはずだ」
「やっぱり君って天才だね。その才能、本当にもったいな。君のような人が世界のリーダーになったら世界平和が実現するのにね」
「どうも、ありがとう。それで、困った問題は解決したのか」
「やはり、思いは通じるだね。いいアドバイス一つで、いい逃げ道が見つかる」
「逃げ道?。やはり警察に追われているようだね。頑張って逃げてくれ」
そういうと、電話が切れた。