碁の方程式
未来からの贈り物

囲まれると石が取れる

2013/05/02

「これで、やっといい碁盤、碁石のコンピューター画面ができたぞ」とマサは、意気込んで瀬越に電話する。
「それで、碁盤と碁石の次は、何を作ればいいのかな」とさらっと尋ねてみる。
「おいおい、またアドバイスかよ。ちょっとは自分で考えたのかねマサ。俺は暇人ではないよ。この調子だと、お前は、一つできるごとに、次は何がいいだろうと電話してくるつもりか」
「そんなことはないよ。俺はお前を親友だと思っているから、俺の喜びをお前と共有したいだけだよ。それにお前も碁や将棋などのゲームが好きそうだし」
とその場で思いついた自分勝手な理由をでっち上げる。
「ゲームは好きだけど、そんな連絡はいらないよ」
「ところでお前なら、次は何がいいと思う」

「すぐには思いつかないなあ。そうだな、そんないいのができたんなら、できた碁盤を見せてくれ。本当はに出来たのかどうかも怪しいのでまずは確かめてみないと信用できないな」
「それほど、俺ってお前に信用されてないのかな」
「そんなことはどうでもいい。明日少し時間があるから、その碁盤って奴を見せてもらうよ。それがいい碁盤だったら、教えてやるよ」
「それは、ありがたい」

翌日の夕方、瀬越がやってきた。17時に行くというと口約束をすると、彼は必ずその5分前に玄関チャイムがなるのが常であった。
「よう、来たぞ、どれどれマサの碁盤というものを、拝まさせてもらおうかな」
とパソコンの前に座って、画面をのぞきこむ。
「ほう、デザインはなかなかいいね。」
そしてマウスを動かし、石を打つ
「打った音もなかなかいい感じだ」
「そう褒められると、ちょっと照れくさいが、うれしいよ」
と、マサもいい気分になる。しばらく石を打ったり、手戻しで消したりしてると突然瀬越が叫ぶ。
「あれ、石が消えない。囲っても石が消えない。これでは欠陥品だね」
 
「あっそうか、囲われた石は、消さないといけないのか」
「そんなこと、碁を知っている奴なら常識だろ。お前は碁のルールも知らないのか」
「まあそう、づけづけした嫌味を言うな。ここまで作っただけでも、俺には大変だったんだぞ」
「お前にはそうかもしれんが、ここからはその数倍、数十倍、いや数万倍も大変なのこと待ち構えているぞ、わかっているのか」
「大丈夫だよ、千里の道もまずは一歩からというし…。また俺には、『念ずれば通じる』という能力があるようで、困った時は神頼みで、きっと誰かが助けてくれるようだ。これが人生というものだと信じている」
「お前って、本当に気楽だね」
そして、しばらくして親友は帰っていき、マサには、「囲われた石を消す」という次の目標が与えられた。