「俺、対局の囲碁ソフトを作ることになったのだが、一体何から手をつければいいのかさえわからない。何かいいアドバイスをくれないか」とマサが瀬越へ電話ごしに頼んできた。
瀬越は、マサの学生時代の親友である。といっても、親友と思っているのはマサの一方通行かもしれない。なぜなら、マサが困った時に即座に電話する友達である。
「お前が、囲碁のソフトを作る?、それは無理だろう。」と即座に直球で返す。
「囲碁ってゲームはものすごく難しくて奥が深い、プロになることは、東大に入るより難しいと聞いたことがあるぞ」と。
でも、この程度の返答はマサの予想内である。
「そのなことはどうでもいいよ。俺が今からプロになるのではないんだ。ただ売れるソフトができればいいだけなのだから」
「対局ソフトというものは、もう売られているのかい」
「売られているらしいよ」
「売られているらしいといということは、お前まだ見たことがないな」
しまった、やはり瀬越は手怖い。
「どちらにせよ、まずはコンピューターで打てる碁盤自体ができないと話にならないね」
「あっそうか、それはそうだ、なるほど」
マサはすぐに相手の発想に感心する。
「これぐらいのことは誰でも気づくだろ」
「それは人によるよ。そういうのは、よほど切羽詰まらないと、知恵は生まれない」
マサの言い訳は、お手のもである。
「よく言うよ。お前はいつも困った時には、自分で考えるより先に俺に意見を聞きに来る。」
さすがに瀬越は自分を見透かしている。マサは、その意見をすぐに採用した。確かに碁盤と碁石がないと対局ソフトは作れないからである。