座談会(1) 囲碁ってどんなゲーム

  参加メンバー
   プロ棋士 九段:
   越田先生 7段:
   司会者 10級:
  三男 さん 初段(男性)65歳 囲碁暦20年:
  雅夫 さん 2級(男性)40歳 囲碁暦5年:
  良子 さん 6級(女性)35歳 囲碁暦3年:

  【主な内容】
 自己紹介、質問、棋譜添削、石の強弱、石のかかり方、定石を覚える、定石が生まれる原因、手抜きについて
  - 4/9追加分 -
 手抜きできない条件、先手の条件、可能性のゲームとは、中押しの投了、可能性が減少するゲーム、
 何故 地を減らすゲームなのか、次のイメージは


  ※ この文章は座談会形式での講座になっています。


自己紹介

司会者 こんにちは。4月になり桜も満開、お花見到来ですね。
今日から5回にわたって囲碁上達についての座談会を開きます。

皆さんの率直な意見や疑問について、越田先生やプロ棋士の先生から明解なお答えが得られることを期待して、さっそく始めたいと思います。良子さんから自己紹介をお願いします。

良子(6級) みなさんはじめまして、囲碁を始めて3年の良子です。
やっと6級になりましたが、最近なかなか上達できません。今日は、上達の秘訣をお聞きしたくて参加しました。

雅夫(2級) はじめまして、囲碁暦は5年の雅夫です。
棋力は2級程度ですが、自分では弱い2級と思っています。
今度の囲碁大会では、是非優勝したくて参加しました。

三男(初段) はじめまして、囲碁暦20年の三男です。
囲碁大好き人間です。いつも老人会で入門者を教えています。
囲碁の本は結構読んでいますよ。よろしくお願いします。

越田 始めまして、JISの教室で指導している越田です。囲碁理論を研究しています。
今日は、みなさんに、ちょっとユニークな囲碁上達の方法について
お話できればと思っています。よろしくお願いします。

プロ 囲碁は、自分で上達するが難しいゲームですが、教えるのはもっと難しいゲームと思います。
大変奥の深いゲームなので、まだまだ私もこれが囲碁の考え方だと言い切ることができませんが、
この座談会でアマの方々の意見を聞いて、教えるヒントがつかめればと思っています。

司会 私は大学で化学を教えていました。囲碁については以前から興味がったのですが、なかなか忙しくて定年を機会に、囲碁を本格的に勉強しようと思っています。



質問

司会 それでは、そっそく話をスタートしたいとおもいます。
プロの先生のお聞きしたいのですが、アマとプロの勉強方法は違うとは思うのですが、いかがでしょうか。
またプロ先生方は、普段どんな勉強をしておられるのですか、教えてください。

プロ 普段の勉強は、プロ同士が打った棋譜を並べて研究したり、自分の打った棋譜を仲間と研究したりします。それ以外には、早碁を打つことが多いですね。

司会 プロの先生も、アマの時代や院生の時代があったと思うのですが、
そのときはどんな勉強をしていたのですか。
プロ 院生時代は、院生師範のプロ棋士がいて、
自分の打った棋譜を見てもらいその先生から指導を受けるのが主な勉強になります。

この指導を通じて、プロの考え方の基本を身につけることになりますが、
ちょっとしたカルチャーショックの時期でもあり、アマの時代の学んだことを全て否定されたこともありました。


棋譜添削 その1

良子(6級) へ〜。自分の棋譜を先輩棋士に指導添削してもらうのですか、それが勉強になるのですか。ちょっとビックリです。

三男(初段) 私も、以前はプロの棋譜を並べることもあったのですが、全く意味がわからないし手順の番号を見つけるのも大変で、すぐ止めました。ワハハ…

雅夫(2級) 碁会所などで、上手の人からアドバイスを受けるのですが、人によって意見が違っているので、ちょっと最近混乱気味ですね。何が本当かがわからなくて…

三男(初段) それは、下手な上手に聞いてるからじゃないの。私なら明解に答えてあげるよ。今度教えてあげるからね。

司会 プロでもいろいろ考え方の違いがあると聞いていますが..いかがです先生。

プロ そうですね。プロの集まりでもいろいろな意見があります。
しかしアマチュアの方のように全く正反対の意見があるのではありません。ただ考え方が違っていても、自分なりにいい手、悪い手の理由があって、その評価が少し違っている程度ですね。

越田 ネットでも、教えているとすぐ「最善手はどこですか」尋ねたがる方が多いですが、囲碁は、いい手の理由はなかなか説明し難いゲームですが、悪手の説明は結構簡単ですね。例えば、打ったら石が取られる、手抜きしたので石が死ぬ。など…


棋譜添削 その2

良子(6級) 私みたな弱い棋力の者でも、棋譜の添削って勉強になるのかしら

三男(初段) それは、なるでしょう。間違った手ばかり打ってても、上達しませんよ。いい手教えてもらわないと、強くなれないしょう。当たり前のことですよね、越田先生。

越田 ちょっと私に同意を求めないください。困った人ですね。

良子(6級) 三男さん、失礼ですけど、私もちょっとは勉強してますよ。本をよんでいい手をたくさん覚える方が、添削を受けるよりもっと早く強くなれると思いますけど…

越田 むむ…三男さんが怒らすから…良子さんの学習方法もいい方法の一つですね。ただし、相手がその手順通り打ってくれればいいですが

雅夫(2級) そうなんです。いくら勉強しても相手がその手順通りに打ってくれません。もっともひどい先生は、講義ではこう打てば良いといってながら、自分がいざ指導対局の場面では、決まって手抜きしたりするので、つい心の中でこの嘘つきといいたくなります。

三男(初段) それは、仕方ないでしょう。誰でも負けるのはいやだから

雅夫(2級) でも、自分のいったことには責任をもたないと、信用されなくなりますよ。

司会 まあまま、そう険悪なムードになってきました。ところで、私は、どうして手抜きするのか、どんな時に手抜きするのかよくわからないのですが…

プロ それは簡単です。不利な戦いを避ける。これが基本です。

三男(初段) そうそう、弱い人は、自分の石の方が弱いのに、反発したり逆に相手の石を取ろうとしたりしてますよ。そして最後の投了…

良子(6級) それなら、私のような棋力の弱い者が添削を受けても意味がわからないという意味ですか

越田 初級者の人にとって、添削を受ける目的は、
1. 石の強弱の感覚を養う。
2. 石の強弱によって、打ち方が変化することがわかる。
この2つのことに気づけば十分です。


石の強弱

司会 石の強弱はそんな重要なんですか。私は、入門者なのでそれがピンとはこないのですが、一体どうすればそれが身につくのでしょうか。

三男(初段) 確かに石の強弱の感覚こそ、碁の才能ですよね越田先生。

越田 そうですね、ただしこの感覚を本当に正しく見につけるのは至難の技です。

良子(6級) どうしてそんなにも難しいのですか。簡単そうにも思えるのでけど…

越田 石の強弱の基本は、どれだけ手抜きしても石が取られないかの手数で判断していますが
手抜きしても大丈夫という読みは、結構大変です。

良子(6級) へ〜?…手抜きしても大丈夫….それどういう意味ですか

三男(初段) そこは価値が低いから、打っても意味がないというこじゃないの…先生そうですよね。

越田 いいえ違います。

三男(初段) え〜…違うのですか

良子(6級) 博識の三男さんも基本から、もう一度勉強してくださいね。…

越田 手抜きの条件は「石が絶対に取られない」また「石が取られてでも大丈夫」という意味です。

三男(初段) 石が取られると碁にならないもんね。

良子(6級) もう元気になっている。

越田 打った石が意味もなく無条件に取られてしまうことがあってはなりません。

良子(6級) へ〜?…今度は無条件で取られてはいけないのですか。

三男(初段) 碁は、石の取り合いが基本中の基本。
石の取り取られの争いといっても過言でない。というい意味ですよね。

越田 それも、ちっと偏った考え方のように思えますよ。三男さんは戦いが好きなので、
いつも取るか取られるかの碁が多いようですが、ちょっと打ちすぎですね。

三男(初段) これはまたどうもすみません。でも戦わないと碁を打った気分がしないもんで…これも性格なんですかね。

越田 構想を立てる基本は、石が取られないことを前提に立てていますよ。
逃げようとする石を、無理やり取ることはできません。これも碁の法則の一つですね。

雅夫(2級) でも、僕の石はよく取られのですが、これは一体どうしてですか

プロ プロ同士の対戦でも石が死んだり、取られたりすることはありますが、それは読みミスであって、
用心さえすれば、石が取られることはないでしょうね。


石のかかり方

司会 石の強弱は以外にも、どんなところで棋力差が生まれるのを感じますか。

雅夫(2級) 先生、僕は石のかかる方向がよくわからのですか、どう考えればいいのですか。

越田 これは、大変いい質問です。でも一番難しい質問でもあるようです。

良子(6級) よく大きいほうから「かかる」といいと聞いたことがありますけれど、違うのですか

三男(初段) かかると挟まれるのが恐いなんていうのかと思ったら、いいこというね。

越田 大きいほうからかかるといい場合が多いようです、必ずしも100%の正解ではありません。

雅夫(2級) 大きいというのは、空間の広い方からという意味でしょうか。

越田 そうです、広い空間のある方向からかかるという意味です。
でも、私の理論としては、「相手の地を囲いにくくさせる方向からかかる」といのが正しいと思います。

良子(6級) え〜びっくり….また頭が変になりそう…

雅夫(2級) 地を囲わない方向って、どういう意味ですか。

越田 もう一手、手入れされると、確定地になる場合には、打ち込むで相手の地を消すでしょう。
それと同じ意味です。

プロ 守られると、もう攻めれなくなる場合のことですね。やや例外ですが、急場ですね。

雅夫(2級) それが、地を囲わない方向、2級の私には難しいですね。ちょっと能力オーバーです。

越田 入門の時に、囲碁は地の囲い合いのゲームとして教えられたため、
どうしても大きく地を囲う方向からかかろうとする癖が、級位者の人に多く見受けられます。

三男(初段) これでわかったなるほど、大場より急場か。

良子(6級) これで、三男さんは、気持ちだけは2段昇段ですね。



定石を覚える

司会 囲碁では、布石や定石を覚える必要があるようですが、
どのようにして学習するのがもっとも効率的か教えてください。

三男(初段) 定石を覚えて2子弱くなり、なんて格言があるぐらいだから、覚える必要なんてない。
これが結論かな。

良子(6級) それって、三男さんが定石をしらないという言い訳に聞こえるのですが。
おほほ…プロの先生は、定石をどのくらい知っているものなんですか。

プロ 定石ですか、院生頃はよく勉強しましたが、最近は勉強不足ですね、
私も定石を覚えるのは棋士の中では苦手のグループに入るでしょう。
でも三男さんよりは知っていると思います。

三男(初段) あたり前田のクラッカー。先生、あまりいじめないでください。
私だって、定石の20や30ぐらいは知っていますよ。 初段ですよ、これでも初段….

雅夫(2級) 僕もあまり定石はしりません。自信がないな〜、どうした覚えられるのかな。

プロ 雅夫さんも、きっと実戦でよくできる定石は知っていと思います。

雅夫(2級) そうですか、それなら嬉しいのですが…

越田 実は定石の勉強では、手順を覚えることも必要ですが、
定石を選択する考え方の方がもっと難しいし、大切なんです。

良子(6級) 定石ってそういものなんですか。初めて聞きました。

三男(初段) それが、6級の初段の差ですよね。馬鹿と包丁も使いうよっていうでしょう良子さん

良子(6級) そうですね。相手によって言葉も使い分けないと、大損しますよね、三男さん、うふふ

司会 三男さん。あまり良子さんを刺激しないでください。
ところで棋力差は、定石の使い方でわかるものなんですか。

越田 棋力差はそれだけではありませんが、
定石に活用方法の違いで5目以上もの差が生まれると思っています。

プロ 定石の活用や評価は、大変難しい問題で、
その地代の布石によってその評価が180度変わることがあります。

良子(6級) そうなんすか。いろいろ知らないことがいっぱいですね。



定石が生まれる原因

司会 定石が生まれるのも、何か原因みたいなものがきっとあると思うのですけど…
それが解れば、もっと簡単に定石が覚えられるとおもうのですが。

良子(6級) きっと越田先生なら、知ってられると..そんなお顔に見えるのですが…

越田 良子さんは、人相の勉強もされておられるのですか。

良子(6級) お顔をみただけで、なんとなくわかるものですよ。

越田 先ほどから、私をチラチラと見ているので、
てっきり私に気があるのかとドキドキしていたのに….残念です。ワハハ…

良子(6級) 先生、そんな冗談ばかり言ってないで、この機会に是非その秘密、教えてください。

越田 はいはい、わかりました。定石には、
 1 受けてから、挟んで攻める
 2 挟んで攻めてから、守って生きる
2つのパターンがあるようです。
どちらの場合でも、黒白、両方とも「安定した生きた状態」になるとその戦いは一旦停止します。

三男(初段) 「安定した生きた状態」ってどういう意味ですか。
私の心は、いつも不安定なので、安定した生きがわかりません。
良子(6級) ホント、三男さんの生き方は、いつも不安定なはぐれ雲の生き方ですもの。

三男(初段) それは、良子さんと打つときだけの、私のあなたへ愛情表現です。女性の心をぐっとつかむテクニック。

司会 もう、あまり脱線しないでください。私も「安定した生きの状態」なんて言葉は、今まで聞いたこともありません、
一体どういう意味ですか。

越田 どうも、知らない単語ばかり使ってすみません。
安定した生きの状態とは、手抜きしななれば絶対に死なない状態のことです。



手抜きについて

司会 越田先生、ちょっとすみません「手抜き」という言葉が先ほどからよく出てきますが、
「手抜きできる状態」とは、どんな状態のことをいうのですか。

三男(初段) ちょっと難しく考え過ぎです。「手抜き」できるかどうかなんて、人それぞれの好き嫌いの問題でしょう。
棋風ですよ棋風。どんな場合なんてものはない。これが正解…

雅夫(2級) それは、そうかもしれないけど、ちゃんとした理由もあると思うな。

三男(初段) そんなことに、悩んでいるから強くなれないんだよ雅夫さんは。
なんでも理由を聞きたがる、知りたがる、これ日本人の悪い癖ですよ。子供なんて理由がなくてもどんどん強くなる。

雅夫(2級) え〜。理由は大切でしょう。それってちょっと変ですよ。

三男(初段) ゲームなんだから、感覚が一番。感覚を養うことが、きっと上達の第一の秘訣でしょう。それ以外には、気合。「手抜きさせないぞ」という気持ちで打つと相手は、相手は手抜きできないものですよ。

プロ 三男さんは、プロ棋士のびったりの性格ですね。勝負師の才能がおありのようですね。

三男(初段) プロの先生にそういわれる、ちょっとて照れますね。ワハハ…

良子(6級) 先生、勝負師じゃなくて、詐欺師の間違いじゃないの…オホホ…

司会 教えるまた学ぶという立場から考えてても、やはり理由が大切であり、どこでも手抜きもできるわけじゃないので、
きっと理由はあるように思えるのですが…私にはわかりませんが…

プロ 三男さん、反対意見になってちょっと申し訳ありませんが、プロは感覚や定石の知識だけで打っているわけではありません。
「手抜き」する場合には、損得を計算し納得して打っていますよ。

越田 手抜きできるかどうかの理由を理解するのは、実は大変難しい研究テーマになっています。
そのため、「手抜きできる状態」ではなく「手抜きできない状態」には、どんな場合かを考える方が、もっといい方法と思っています。

プロ なるほど、逆転の発想ですね。

良子(6級) 越田先生は、変人の研究者のようですわ。わたしの理想のタイプです。嬉しい〜

三男(初段) あ〜あ。三十路女性、桜満開。お酒があれば、外でなくてもここでも花見ができそうです。

司会 少し、休憩にしませんか、私の司会脳力もそろそろ限界なので10分後に再会したいと思います。
遅れないことと、くれぐれも口喧嘩はしないこと。いいですね三男さん…


手抜きできない条件(岡村先生の登場)

司会 それでは、時間になりましたの、越田先生、「手抜きできない条件に」ついて、教えてください。

越田 私がここで説明するより、きっと簡単だと思うので皆さん一緒にパズルを解く気分で考えてみてください。

良子(6級) 先生にとって簡単なことでも、私はパズルは苦手なので、この課題はパスです。

司会 普通にかんがえて、その手が大きいからという答しか思い浮かびませんね。

プロ プロ棋士の中にも理論好きの人もいますが、私はどちらかというと感覚派なのでちょっとわかりません。 そういえば、コウ立てを打たれると、たいていは受けますね。

三男(初段) 私は、コウが嫌いなので、あまり考えたくありません。

越田 どうも四面楚歌の様相になって、どんどん包囲されてきた気分ですね。雅夫さんはどうですか。

雅夫(2級) 今ちょっと思ったんですけど、受けないと、自分の大きな石が取られる場合には受けると思うのですが…

トントン….ドアを叩く音がする。

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岡村(6段) こんにちは、遅れてすみません。

司会 あ…岡村先生。ちょうどいいところに助っ人の登場です。大学での教員囲碁部の世話をしておられる先生です。囲碁は6段の腕前で、本来は今日の司会をされる予定だったのですが、出れないかもしれないといことで、急遽、私に司会が回ってきました。

岡村(6段) ご紹介いただいた岡村です。大学では教育学を教えています。本当は最初から参加したかったのですが、大学での雑務が多くて、遅れて申し訳ありません。
司会 今、「手抜き」についての議論が始まったところです。

岡村 (6段) あ。そうですか。しばらく聞いていますので、どうぞ私におかまいなく話を進めてください。

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司会 雅夫さん。話が途中で途切れてすみません。続けてください。

先手の条件 議論再開

雅夫(2級) 繰り返しになりますが、受けないと、自分の大きな石が取られる場合には、かならず受けると思うのですが。

越田 「それが正解」といいたいのですが、ちょっと言葉が足りないようです。

雅夫(2級) え〜!、言葉が足りないですか。

プロ 大きな石が取られても、それ以上の大きな石が取れる場合もありますよ。その場合には、手抜きします。

雅夫(2級) あっ、そうですね。確かに..

プロ でも、実際には、そんな大きな石が取れる場合なんてないですね。だから受けるのですが…

岡村(6段) 手抜きできない条件というのは、先手のことですね。

越田 そうです。コウ立てで、相手が必ず受ける場合の手や石を取ろうとすると相手が逃げる条件です。

岡村(6段) 途中からで間違った意見かもしれませんが、単純に「負けるから受ける」からでいいんじゃないですか。

越田 だんだん核心に迫ってきています。そうなんです。「負けるから受ける」なんですが、まだ言葉不足に思えるですが..

岡村(6段) 越田先生は、やっぱりちょっと変った理論家ですね。普通ならここで終るのですが、まだこの先があるのですか、ちょっとしつこいですね。

越田 すみません。性格なもんで…

岡村(6段) 「負けるから受ける」では言葉不足とすると…もうギブアップですね。

可能性のゲームとは

良子(6級) 越田先生の変人なところは、好きですけど。しつこいのは嫌いです。

司会 もう降参して答を出した方が、いい時期ですよ。越田先生

越田 はい、わかりました。「負けるから受ける」なんですが、正確には、「勝てなくなるから、受ける」という言い方が正しいと思っています。

三男(初段) それは単なる「言葉のあや」というものでしょう。同じ意味だと思います。
いくら先生のご意見でも、ちょっと納得できません。

良子(6級) 私も、三男さんに賛成したくはないけど、これは越田先生が間違っていると思います。

越田 誰か助けてください。岡村先生は、どう思いますか。

岡村(6段) ちょっと判断しかねますね。何か越田先生の説明不足が、原因しているように感じます。

越田 確かにそうですね。すみません。確定性と可能性についての話がどうも必要なようですね。

司会 また、新しい単語が飛び出してきました。もうお手上げです。

岡村(6段) その話の前に、ちょっと質問していいですか。

越田 はい、どうぞ

岡村(6段) 「負ける」と「勝てなくなる」の言葉の違いにどうしてこだわっているのですか。

越田 「負ける」という言葉は、確定した過去の結果を表現していますが、「勝てなくなる」という言葉は、未来の可能性がゼロになることを表現しています。

岡村(6段) なるほど、それで…。まだ十分理解はできてはいませんが…

越田 つまり、囲碁は、手順が進行すればするほど、逆転のチャンスがなくなるゲームである。という特性があるのです。これは、皆さん賛成していただけると思います。

岡村(6段) それは、納得できます。

越田 もし受けないで、大石が取られると、100%勝てない状況になるからではなく、「勝つことが、困難になる」といいたいのです。

岡村(6段) ということは、まだ勝つチャンスはあるけど、非常に少ないということですね。

越田 そうです。相手のミスを期待してはいけませんが、ミスが多いゲームなので、アマの場合は、また逆転なんて頻繁にあるゲームです。つまり「勝ちにくくなる」だけなのです。

中押しの投了

越田 中押しで終る碁は、プロの対局には多いですが、アマの碁に少ないです。囲碁年鑑の対戦では60%を超えていますね。

プロ これは驚きですね。でもそういわれると、そうかもしれないと納得しますね。

司会 以前から疑問に思っていたことですが、投了した場面を見ても、どうしてここで投了なのかがわからないのです。初段程度の棋力になれば、きっとわかるようになるのでしょうけど。

プロ プロの投了には、いろいろな場合があります。1目しか負けていなくても、もう絶対に勝てないと思うと投了する棋士もいます。

良子(6級) へ〜本当ですか!。たった1目で、とても信じられません。

三男(初段) 勝てないなら、投了でしょう。それがプロの世界。礼節を重んじる日本のすならしい慣習ですね。

良子(6級) 三男さん。言葉だけは、いつもすばらしいですね。

三男(初段) 今日始めて、良子さんから褒めれました。嬉しいですね。

良子(6級) ところで、この間、中盤で失敗して30以上もの大石が取られたのに、まだ三男さんが粘って打ってましたが、あれは、まだまだ投了の碁ではなかったのですね。

三男(初段) あの対局、見てたのですか。こりゃまいったな〜。

プロ アマの場合は、失敗がいつでも生まれる可能性があるので、投了は気分次第でょう。

三男(初段) そうですね。でもこれが棋力の低い人が、なかなか理解できないところですね。

良子(6級) あ〜なるほど。蜘蛛の巣をはって、相手の失敗を待っていたのですか。有段者の碁が、理解できない理由がわかったような気がします。三男さん、ありがとう。うふふ…

岡村(6段) プロの碁で、中押しの碁が60%以上もあるなんて、ちょっと驚きですね。

越田 作り碁の場合は、半目勝負での決着が一番多いのは、いかがですか。

岡村(6段) え〜。そうなんですか。それも初耳です。

可能性が減少するゲーム

司会 越田先生。先生が先ほどお話ししようとした「可能性」という言葉と、「中押し」とは何か関係があるのですか。

越田 関係があります。

岡村(6段) 興味がわいてきました。どう関係があるのですか。

越田 ちょっと難しいかもしれません、、囲碁の本質は、今皆さんが持っておられるイメージとは全く違った
ものとして、先入感をすてて新たなイメージで理解していたきたいのです。

良子(6級) これって、先生が始めにいってたちょっとユニークな上達法と関係あるのかしら。

三男(初段) あまり関係あるようには。思えませんね。囲碁で新しい発想なんてないと思いますよ。

良子(6級) 三男さんて、夢のない人生でつまんない。

三男(初段) 人生は夢がいっぱいありましたよ。すべて泡となって消えましたが…

司会 また横道の散歩ですね。話を戻させてください。越田先生、それはどんなイメージなんですか?

越田 互いに、地を囲って増やすゲームではなくて、相手の地を減らすゲームというイメージです。

雅夫(2級) えっ!。なんですって。相手の地を減らすゲームですか。
越田先生は、本当に奇人なのか天才なのか、私の頭も混乱してきました。

岡村(6段) わたしも、彼は天才かもしれないと錯覚しそうです。

何故、地を減らすゲームなのか

司会 どうして、「地を減らすゲームである」ことに、越田先生はそれほどこだわるのですか。

越田 囲碁をゲーム理論として考える場合「地が増える」「地が減る」と2つを考えると混乱し矛盾が生まれて、一向に先へ進めないのです。

司会 先へ進めないというという意味は、答が見つけられないという意味ですか。

越田 そういうことです。最初は地をいかにして地を増やすのかと考えたのですが、これもなかなか答がみつからない。一層のこと、地を減らすゲームとして遊び心で考えてみたら、これが不思議なことに、矛盾が消えていきことに気づいたのです。偶然から生まれた必然というか…

三男(初段) 「地を減らすゲーム」でも、「地を増やすゲーム」であってもどうでもいいことじゃないの。
それって、越田先生の思い込み病ですよ。

良子(6級) 三男さんて、夢がないだけでなく、他人の考えは信用しない人ですね。そういう人は嫌われますよ。

岡村(6段) 私もどちらも同じと思えるのですが….もう少し、具体的なイメージが欲しいですね。

越田 そうですね。まず碁盤のスタートでは、黒は361目の地が囲える可能性があるとイメージしてください。

司会 361目というのは、19路盤のすべてが黒地であるとイメージしてるですか。

越田 そうです。黒も白も361目「地の可能性」があるとイメージしてください。

司会 簡単そうで、なかなか難しいイメージですね。

次のイメージは

司会 これで終わりではないでしょう。

越田 そういじめないでください。これからが始まりです。

三男(初段) なんかまるで、新しい言葉を覚える気分ですね。もう頭が疲れてきました。

越田 次が大切です。一手打つ毎に、相手の地がどんどん減っていくと、イメージしてください。

司会 相手の地が減るといことは、黒が打つと白地が減るということですね。

越田 そうです。それで結構です。

良子(6級) 黒地は増えないのですか。減るばかりじゃ、ちょっとつまらないじゃありません。

越田 良子さん、最初の361目のあるので、そう欲張らずに、安心して減るとだけに集中してください。

良子(6級) はいはい。気分は不満ですが、後の楽しみを期待して我慢してみます。すみません。

越田 一気に終局まで進みます。するとそこに確定地が残っていますが、この確定地は一体どのように見えますか。

雅夫(2級) 確定地は、確定地でしょう。

越田 そういう意味ではなく。地の可能性として最後まで残った場所が、自分の確定地として残っているとイメージし理解してください。

岡村(6段) ちょっと違和感はありますが、そういう理解も可能ですね。

越田 つまり。361の可能性の持ち点を、互いに減らしあって、最後に残った地を争うゲームになっているといように理解することも可能なことに気づいていただけると思うのですが…

岡村(6段) やはり、すごい発想の転換ですね。こんな話は、聞いたことがありませんね。