座談会(2) 囲碁ってどんなゲーム

参加メンバー

主な内容

始めの挨拶、棋力と終局手数の関係、囲碁の個性、反発と攻め、積極性と用心、攻める目的、どの程度読んでるの、読みを鍛える、死活の学習方法、実戦では、生きるが先、弱い石が一つの場合は、石は取れない


始めの挨拶

司会 時間になりましたので、理論座談会を始めさせていたさきます。今日は、雅夫さんが、「急用で欠席です」という連絡がありました。新しいメンバーが三名おられます。簡単に自己紹介してください。

純子(12級) はじめまして、良子さんの紹介で、参加させていただきました純子といいます。よろしくお願いします。

高橋教諭 はじめまして、中学校の囲碁クラブの顧問をしている高橋です。よろしくお願いします。

山田指導員 老人クラブで碁を教えている山田といいます。よろしくお願いします。

司会 前回は、囲碁が地をお互いに減らすゲームであるという越田先生のユニークな発想から、囲碁を考えるという体験させていただきました。きっと皆さんの対戦成績も上がってことと思いますが、いかがですか。

良子(6級) 成績は、ちょっとは良くなったようですが、石が取られることが多くなった気がします。

三男(初段) 成績は変化なしですね。心境の変化があって、前回は、良子さん大変お世話になったので、今回は、言葉に用心して、少し静かにしたいと思います。

良子(6級) 碁は成長しなくても、人間として、成長なさったようですわ。三男さん、おほほ…

岡村先生 最近、忙しく碁を打つ機会がほとんどありません。今日もまたユニークな発想に出会えることを楽しみにしています。

棋力と終局手数の関係

司会 今回、どんなテーマが飛び出すわかりませんが、とりあえず前回の続きからスタートしたいと思います。越田先生に質問はないですか。

岡村先生 終局までの手数は、どの程度が平均なのですか。

越田 そうですね。プロ同士の対局では、作り碁の場合には、およそ245手から265手で終局が多いようですね。

岡村先生 アマの場合はどうですか。

越田 アマの場合は、形勢判断ができない人が多いので、終局までの手数はバラバラですね。それでも、強い人ほど、終局までの手数が長くなる傾向があります。

岡村先生 それは、面白い結果ですね。

越田 予想ですが、六段で250手程度、初段なら230手ぐらいが多いと思います。

三男(初段) 初段の私の場合は、230手で終局か。良子さんなら200手以下の碁が多いということになるね。

良子(6級) 終った時の手数なんて数えたことがないのでわかりませんが、きっと三男さんよりは手数が長いと思いますよ。

三男(初段) え!それなら、「私の方が弱い」といいたいのですか。

良子(6級) 三男さんの碁は、「打ち上げ花火」のようで、中盤戦で碁は終っていますよ。

越田 打ち上げ花火か、上手い表現ですね。それなら最後はドドーンで終るのですか。

良子(6級) それならかっこいいのだけれど、最後だけは、線香花火のように寂しく終る。

三男(初段) あれ〜。前回のことをまだ根にもってる。女性は執念深いからね。

越田 でも、その指摘、あたっているかもしれません。初段前後の棋力の方は、戦いの楽しさを実感できる時期になるので。そのため、途中で潰れることが多くなるかもしれません。

良子(6級) さすが先生、その言葉使いは、プロ級ですね。

越田 ちょっと、今度は僕がターゲットですか。どうか勘弁してください。

岡村先生 3級から6級あたりの人の碁は、戦いより「地を囲い合う碁」が多くなっている。そのため、手数も短くなりやすいのでしょうね。

良子(6級) だって上手にいじめられてばかりだし、すぐに石が取られるので恐いんですよ。このくやしい気持ち、わかってください岡村先生。

岡村先生 はい、確かにそうですね。今日の良子さんの服装のセンス、なかなかいいですね。

良子(6級) 先生、その一言、とても素敵です。さすが、高段者ですね。(にっこり)。

囲碁の個性

司会 終局からでも棋力がわかるのは、面白いことです。それ以外にも、棋力差の傾向として
わかるものはありますか。

高橋教諭 棋力差ではないですか、生徒を教えていると、気性というか個性によって上達スピードの差が現われている、つくづく思います。囲碁才能って、なんなんでしょうね。

良子(6級) 先生。学校で、囲碁をする子は増えてますか。

高橋教諭 残念ながら、なかなか碁に興味を持ってくれる生徒は少ないですね。「ヒカルの碁」がブームの時は、囲碁を始めたいという生徒は多かったのですが…

司会 プロの先生からみて、才能のある子供とない子の違いはなんですか?

プロ そうですね。やっぱり頭のいい子は、教えるとすぐ強くなりますね。

良子(6級) 先生は正直な方のようですけど。それはちょっと問題発言ですよ。

プロ そうですか。打ちすぎですね。すみません。

純子(12級) 先生、負けず嫌いの子は、碁に向いてると思いません?

プロ 確かにそうですね。反発心の強い子供の方が、上達が早いようです。

純子(12級) やっぱりね。だから私はダメなんですね。良子さんと碁を始めた時期は同じですが、良子さんだけは、どんどん強くなるのに…

良子(6級) とんでもありません、純子さん。純子さんは、囲碁以外の方とのお付き合いも多いから、勉強しないだけじゃないの。本当は、私よりずっと頭もいいのですよ。

高橋教諭 そういえば確かに、負けず嫌いの子供の方がいろいろと工夫しますね。

プロ プロ棋士でも、普段は温厚に見える人が、いざ対局となると人間がかわります。頑固になって
反発することばかり考える人に変身です。人間って仕事となると、こんなに違うと思うと恐いぐらいです。

反発と攻め

司会 指導碁を受けていると、相手の石を攻めなさい、反発しなさいとよく言われます。でも反発した手を打つと、いつも自分石が取られることが多いのですが…。

三男(初段) 手筋を勉強するといいですよ。相手の石が取れるようになります。

純子(12級) そうなの。手筋の勉強がいいの。いつも石が取られる原因はそこにあったのね。

越田 何か碁の本質とは、違った方向に進んでるようで、心配になってきました…

岡村先生 そうですか越田先生。何が心配なんですか。私も攻めることは重要と思っていますが…

越田 攻めるという気持ちは、大切なんです。でも、攻める気持ちと、相手の石を取ろうする気持とは、違うと思いうのですが…

プロ プロ棋士の中には、攻めるより攻められる方が好きな棋士もいますよ。

良子(6級) そうなんですか。囲碁の世界もSとMの2つのグループがあるのですね。

三男(初段) 僕は、表面的にSに見られるけど、内面はM。気の弱い人間なんです。

良子(6級) あら..そう..。それなら私と一緒ですわ。わたしも自己表現が下手なのでいつもSのようですねと誤解ばかり受けてますが、本当は、心やさしいMさんですよ。

司会 プロの先生の中に、攻められる方が好きな人がいるなんて、始めて聞きました。

プロ ちょっと誤解を生んだようです。プロの勝負では「攻める方のは、難しい」と知っているので、戦略的に「相手に攻めさせる方が簡明」という考え方であるだけ、SだのとMの話ではありませんよ。

良子(6級) な〜んだ、そうだったんですか。それなら…さっきの話しはなかったことで忘れてくださいね。

積極性と用心

司会 囲碁での対局姿勢としては、攻める気持ちと守る気持ち、どちらが大切ですか。

プロ それはやっぱり攻める気持ちでしょう。

司会 越田先生は、この点についてはどうなんですか。

越田 攻める気持ちでしょうね。でも「相手の石を取ろうする」ことではないと思ってますが

司会 棋力にる学習順序としては、どうですか。

越田 学習順序としても、「攻める」ことからの方がいいと思います。
「攻める」ことがわからないと、「守り」のタイミングや方法がなかなかわからないと思います。

岡村先生 攻めすぎると損な場合が多いのですね。攻める前には、十分な準備も必要でしょう。

三男(初段) 攻めるのに準備なんて。チャンスがあれば積極的に攻めないと、碁は勝てませんよ。

越田 「攻める」のは、構想目的ではなくて、一つの構想手段と思っています。これはが私の持論ですが。

良子(6級) 私、「攻めらず。守らず」という話を聞いたことがあって、その時は、弱い私でも、なるほども感心したのですが、後で考えると、だんだんチンプンカンプンになって来て…
なんだか越田先生のお話も、似てるように思えるのですけど。

プロ アマとプロとでは、攻める目的や技術が違っていて、プロは相手の石が取れるなんて思っている人はいないと思います。

三男(初段) え〜!、そうなんですか。良子さんと対局すると、すぐ石が取れるのですか。これは、良子さんの僕への思いやりだったですね。

良子(6級) そうですよ。やっと今頃わかった。これまでの支払った思いやりの請求書を、今度お届けしますので、お支払いよろしくね。これで私も、億万長者になれそう。…嬉しい…

攻める目的

司会 初級者に攻めることを教えるのに、石が取れないとなると、一体何を目的として攻めていると教えたらいいのでしょうか、どなたかご意見ありませんか。

山田指導員 私の場合は、中級以下の人に教えることが多いのですが、「相手の石を囲うように攻めなさい」と教えています。

越田 「囲うように攻めなさい」いいですね。でも、弱い石でないと、反対に反撃されたりして…

山田指導員 弱い石かどうかの判断は、難しいですね。

越田 そうですね。これが、囲碁で一番厄介な問題ですね。

プロ 攻める場合には、相手の石が弱い石でなければ攻めれませんね。

司会 越田先生は、前回、「手抜き」と「生き」の関係について何か話そうとされてましたが、弱い石とは関係ないのですか…

越田 「弱い石」と「生き」とは、密接な関係がありますよ。理論としてお話しする場合には、「生きるスピードの関係」として、説明しています。

司会 越田先生は、次々に新しい言葉が飛び出すので、整理しながらでないと理解できませんね。
どちらかと、右脳人間なので直感的な発想が多いですね。生徒さんは大変でしょうね。(笑う…)

岡村先生 きっと先生にはなれないでしょうね。あまり個性が強い人は、協調性に欠けるというレッテルを貼られて。追放されるますよ。(笑う)

山田教諭 いえいえ実際は、そんなことはありません。私のような者でも教師を続けられるのですから。

司会 「生きるスピード」を一言で、簡潔に説明していただくと、どうなりますか。

越田 生きるスピードとは、「完全に生きられるまでの手数」のことです。戦いでは、相手より先に生きた方が有利になります。

どの程度読んでるの

司会 攻める目的には、他ににどんな目的が大切ですか。

プロ 大切なのは、攻めながら、まず自分の弱い石を、補強することでしょう。

三男(初段) え〜!自分の弱い石を補強するのですか。実感としては、ピンとこないですね。

プロ 終局までに、戦いが起こる場所は、1ケ所ではありません。そのため、序盤では特に、自分の弱い石を強くしておくことが大切なんです。そうすると、その後の全体の戦いが有利になるという発想です。

三男(初段) アマの私らには、そんな発想は想像もできませんよ。

良子(6級) 今、戦っている結果がさえ、勝つか負けるかかわからのに。

岡村先生 でも、知識として知っておくだけでも、十分効果ありのお話ですよ。

山田教諭 へ〜!、そんな先々のことまで、考えて打たれているんですね。

プロ 碁は部分ではなくて、全体の戦いですからね。

純子(12級) プロ棋士の先生方って、何手先まで読んでおられるのですか。

プロ 数手先も分からない場合もあれば、100手先まで読んでいる場合もありますよ。

純子(12級) へ〜!、そうなんですか。100手先…まるで宇宙人の世界に聞こえます。

プロ アマの方でも、「シチョウ」なら30手先でも読めるでしょう。これと同じです。変化が少ない戦いなら最後まで読み切れますよ。

純子(12級) プロの先生って、やっぱり大変なお仕事ですね。

プロ アマの方は、碁を楽しんで打てますが、プロはなかなか碁を楽しむなんて余裕はありません。

純子(12級) それなら、私みたいなアマは、強くなるのを諦めて、もっと楽しむ方がいいですね。

三男(初段) それって、私は勉強しないという言い訳のように聞こえますわよ。

読みを鍛える

司会 アマが読みを鍛えるには、一体どんな勉強をすればいいのですか。

プロ やはり詰碁を解くことが大切ですね。

良子(6級) 私もよくそういわれますが。詰碁は、難しい。

山田指導員 初級の人は、詰碁を嫌う人が多いですよ。

プロ 難しい問題を解くからでしょう。簡単な問題を解けばいいのに。

純子(12級) 先生、それは無理です。どの問題もみんな難しい。

良子(6級) 私もそう思います。答をみても、全くわからないもの。

司会 詰碁を解けるようになるための、何かいい方法はないでしょうか。

越田 「生き」の問題から解くとわかりやすいですよ。

高橋教諭 へ〜!それは初耳です。また越田先生の発想ですか

越田 あまり、からかわないでください。

高橋教諭 いえいえ、そんな気持ちはありませんよ。

岡村先生 越田先生のことだから、何か理由があるんでしょう。

越田 2つ理由がありますね。一つは、生きる手は、実戦で活用できるけれど、殺す手は活用できない。もう1つは、生きれない状態を、死んだ状態いっている。

死活の学習方法

司会 まだ、私の棋力ではピンとないので、もう少し初級者にわかるように補足説明をしてください。

越田 どうも私の話しも難しいと思われていて、説明する自信がなくなってきました。

良子(6級) 大丈夫です。きっと私でもわかると思いますわ。説明しくださいな。

越田 そうですか。

純子(12級) わたしも、今回は「ぞうさんの耳」にして、真剣に聞きますから。

越田 ありがとうございます。実は、囲碁のルールでは、石が死ぬというルールはないのです。

純子(12級) え!。…でも、石を殺す詰碁の問題は、いくらでもありますよ。

越田 生きれなくなった状態の石を、死んだ呼んでるだけなんです。正確には、終局になっても生きれない石になった。

岡村先生 越田先生は、殺す方法をより先に、生きる方法を勉強した方がいいと思われますか。

越田 そうです。

岡村先生 でも、殺す問題は必要ないという意味でないのですよね。

越田 その通りです、必要がないとは言ってません。生きる問題の方が簡単で、基本なので、生きる問題をしっかり解けるようになってから、殺す問題を解くほうがいいと思っています。

高橋教諭 それなら、今度学生にテストしてみますよ。いい話を聞きました。

実戦では、生きるが先

司会 越田先生の理論では、「実戦で石が取られるようなことはない」といようなことを講義で言っておられるようですが、私の碁では、石がいっぱい取られまし、死にます。みなさんはいかがですか。

純子(12級) 石は取られることばっかりですよ。当たり前でしょう、弱いんだもの。

越田 理論で説明する場合には、石が取られる原因は、手入れが必要なのに手入れをしなかった。または、手入れするチャンスがなかったからと説明しています。

岡村先生 手入れしなかったミスは問題外として、手入れできなかった理由が問題ですね。どうして手入れできなかったのでしょう。

三男(初段) 私の場合は、欲張って、相手の石を取ろうとしている時ですね。

良子(6級) それは、いつものことでしょ。

越田 つながっていると思ってた石が、突然2つに分断されて、取られたという経験はないですか。

三男(初段) それも、いつものことですよ。

越田 どうして、切断されると、石が取られるのですか。

三男(初段) そりゃ、相手さんがこちらの石を取ろうとするから取られるんです。

越田 確かにそうなんですけど…

良子(6級) 先生、質問はやめて、説明してください。イライラするわ。

岡村先生 越田先生の言いたいのは、切断によって弱い石が2つ同時にできたといいたいのでしょう。

良子(6級) そのために相手は切断してくるのだから、あたり前でしょ。

岡村先生 2つ弱い石が同時できると、どちらかの石が取られる。

越田 その通りです。切断された石は、2つ同時に生きることはできません。一つなら簡単に生きることができるのですが。

良子(6級) え〜!そうだったんですか。
今まで誰も教えてくませんでしたよ、こんな簡単なことなのに。 私、いままで、何を勉強してたの… ショック

弱い石が一つの場合は、石は取れない

司会 2つ弱い石ができると、石が取られるんですね、一つなら大丈夫、これでちょっと安心ですね。しかし、どうして一つなら大丈夫なんですか。

純子(12級) 私なんかまだまだ不安です。一つでも、すぐに取られちゃいますよ。

越田 取られない理由は、単純です。純子さん、中央にある1つの石を、相手が囲って取るのに必要な石はいくつですか

純子(12級) 4つです。

越田 2つの石ならどうですか

純子(12級) 6つですね。

越田 3つならどうですか

純子(12級) 8つかな…どこまで続くのですか。

越田 これで終りです。ここでよく考えてください。どの場合も、「取られる石数より、取る石数の方が多い」でしょう。

純子(12級) 確かにそうですね。

越田 着手は一手ずつ交互に交代に打つ、逃げる石を、追いかけても囲うことができない。

純子(12級) 確かに、いわれてみればそうだけど。

三男(初段) 確かにそうだけれど、実戦では取られる。これが碁の7不思議。

純子(12級) 三男さんみたいに口が悪い人でも、初段になれる。これも碁の7不思議。

司会 楽しいお話の途中ですみませんが、時間になりました。
これで、今回の会は終了させていただきます。ありがとうございました。