日時: | 9月28日(土) 午後1時〜5時 | |
場所: | 関西棋院 4F 理事長室 | |
参加者: | 黒川、菅野、小山、松本、大西、兵頭、大角、越田 以上8名 | |
世話人: | 菅野・越田 | |
主な議題: | 【 囲碁理論での基本仮説の検証 】
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今回の分科会は、
和田先生から提案された
「碁は生きているか−生命体的な波動から見た囲碁の着手について」
越田氏からの資料として提出された、「構築型ゲームとしての囲碁」
の2つの資料にもとずいて討議がなされた。
まず、物質の自己組織化、秩序形成に関する解説のビデオを見た。それはプリゴジンの解説的コメントを交えて、非平衡開放系における秩序形成の単純な例を提示し,その意義を強調するものであった。
囲碁は生き物であるとの和田先生の囲碁観に基づき、秩序形成の過程になぞらえた。盤上の石はそれぞれ振動しており、相互に関連し合っている。それらの石のパターンを波動によって結ぼうという着想である。このように全体的な囲碁の体系を、波動論から見るのは、初期段階の布石では有効性が期待できそうであるが、まだまだ未解明な点が多く、今後の解析研究に期待するということになった。
その評価についてのコンピューター解析は小山先生が行いつつある。
囲碁の本質を明らかにするには、ゲームとしての囲碁の目的とルールから導かれる原理および基本法則を体系的に理論化することが必要である。そのためには、囲碁対局の中に現れる基礎概念の定義、および基本的特性を確立しておく必要がある。
それについて越田氏がこれまでに考察してきた一応の到達点(変更の可能性あり)の一部が報告された。
→ 越田氏の報告内容以上の報告を基に、次の議論がなされた。
1. 囲碁と将棋の比較について
研究会の目的として、他のゲームとの比較研究も大切であるが、まず、囲碁の特性について議論すべきであり、将棋についてはもう少し後の研究課題とすべきである。
2. 囲碁を地を囲う構築型ゲームとして定義することについて
- 囲碁を、地を囲う構築型のゲームとして定義し、それに基づいて定式化
することの可能性を検討することは意義がある。
地を囲う構築型のゲームとして定義できる理由
・ ゲームスタート時点では、碁盤上には地にできる空間のみである。
・ 石を取るゲームなら、取るべき目標として石の存在が必要である。
(だが、オセロのように最初はゼロから出発して、相手の駒を裏返す(
取る)ものもあるから、上の2項は理由の根拠としては弱い。)
・ 布石の段階では、隅を優先して地を確保しよとする(これは結果論)。
- 「目的として地を囲い」、「その手段として、石を取る技術を使う」という解釈に
対する疑義:「石を取る」=「地を増やす」ということも成立している。そのため
「目的 として石を取る」こともあり、「手段として石を取る」と限定はできない。
反論: 取られる石数より、取るための石数の方が多いので、逃げようとすれば、
本来、石は取られない(逃げるスピードがはやい)。
- 地を囲うゲームなら、厚みの地への変換はどう説明するのか
説明: 厚みも本来、地を囲う効率として理解しなけらばならない。ただし厚みを地と
して、 囲うと効率が悪いために攻めの道具として、また、打ち込みの手段として活用
されている。
- 攻めることは、本当に石を取ることを目的としていないか。
答: 中盤での戦いでは、石を取る技術は必ずしも地を囲う手段ではない。しかし、
石を 取ることで勝敗が決定される場合が多い。また相手の勝負手や無理な打ち込み
に対して、相手の石を取ることができなければ、勝てない場面は数多く見受けられる。
- 石を取る技術が、棋力に比例してはいないか。
説明: 地を囲うには、石を取る技術が、もっとも基本となっている。ただし、石を取る
ことではなく、取るぞと脅かし、相手を逃げさせる方法(相手の着手を制約すること)に
よって、効率のよい大きな地の空間を、相手の邪魔を防止しながら囲うことが可能となる。
- 全ての着手に関して、地を囲う目的に帰着するとして、その着手の働き(価値)を
説明(評価)可能か。
答: 現段階では、捨石、さばきなどの価値を、地の価値として変換し定量的に求める
ことはできない。しかし、定性的なレベルではその変換可能性はある。また、囲碁の
着手に生ずる全ての定性的な価値を研究し定式化することが必要である。
- 相手の無理手の打ち込み、消しに対しては、取らないければならないのではないか。
説明: 形勢が悪いため、相手の勝負手としての打ち込みは、取らなければならない。
その理由れは、構想として自分の地の内側に打たれないことを前提に立てているからで
ある。ただし、逃がしても勝てる場合は、安全に勝つために逃げさせる方を選択する。
また、構想として囲う予定の地の外側を消しにきた石を、無理に取りに行くことはない。
- 囲碁理論における用語の定義、および基本的前提、基本法則、定理、系を整理分類する
必要がある。その際に、その前提や法則が必要かつ十分条件を満たしているかを常に
吟味しなければならない。- 着手の価値や考え方の定性的な検討だけではなく、計算可能な定量的な検討も必要である。
それは囲碁ソフトを作るためにも不可欠である。- 囲碁理論の解明と囲碁教育との関連について
理論分科会でのこれらの囲碁理論の討議は、高度な理論である。そのことと
囲碁教育の手法については、別途全体会で討議する必要がある。- コンピュータに「急場」の判定は可能か。まだできていないが可能性はある。それができれば
非常に有力なソフトになるだろう。
- 目(眼) ……… 石が取られない限り、絶対に減らない確定地
- 確定地 ……… 相手が打っても、生きれない場所
- 勢力地 ……… 一方の勢力のみが優勢であり、確定地になり易い場所
- 空間の境界 … 勢力が互角な、地の境界としての空間
- 未確定な空間 … その周辺にどちらの石も存在していないが、地の可能性のある空間
- ダメ空間 ……… 黒白とも、地になり難い空間
- ダメ場 ……… 黒白とも、絶対に地にならない場所
法則1 囲碁は、地の大きさを競うゲームである。
法則2 囲碁は構築型ゲームである。
法則3 構築型の戦いは、理想図から生まれる。
法則4 構想をたてるには、まず理想となる図を学び想定する能力が必要になる。
法則5 相手の石は、自分の構想の障害物になる。
法則6 効率よく地を囲うことには、必然的な着手制約が必要である
法則7 構想をたてるには、相手着手の予想が必要になる。
法則8 打ち込み、はさみの目的は、構想の準備として
捨てれない弱い石を作ろうとすることにある。
法則9 地を囲うことを意思表示すると、
相手への制約の条件を、同時に与えることになる
法則10 着手の制約条件は、活きる、捨てることによって解除される。
法則11 一手の価値計算は、地の増減が基本関数である
法則12 一手の価値には、間接的な一手の価値がある。
法則13 広い空間に、先に打つと、そこを地として囲える権利が生まれる